「ロレックスのリューズをじっくり見たら、クラウンマークの下に小さな記号が刻まれていた。これは何だ?」
そういう体験は少なくない。ロレックスを長年使っていても、リューズ側面の極小の刻印まで意識している人は多くない。しかしこの記号は、そのロレックスのケース素材・防水システム・製造年代をひと目で示す、設計者からのメッセージだ。
刻印は現行モデルだけで8種類以上存在する。「-」「・」「・・」「・・・」「・●・」「●・●」「・-・」「●●●」——それぞれが素材・ロック方式の違いを示しており、アンティークモデルになると「BREVET」「ROLEX SUPER OYSTER」という文字列が刻まれた個体まで存在する。
つまるところ、リューズの刻印はロレックスが時計本体に刻んだスペックシートだ。この記事では、全刻印の意味・ツインロックとトリプロックの構造的な違い・素材別対応表・アンティーク刻印の読み方まで、できる限り詳しく解説する。
📌 この記事でわかること
- 現行モデル8種類+アンティーク3種類、全刻印の正確な意味
- ツインロックとトリプロックの構造の違いと採用モデル対応表
- 「・-・」「・●・」「●●●」など紛らわしい刻印の見分け方
- GMTマスターII唯一の左リューズ仕様の背景
リューズの刻印とは何か
ロレックスのリューズ(竜頭)側面には、クラウンマーク(王冠ロゴ)の下に極めて小さな記号が刻まれている。これが「オイスタークラウンシステム」の種別を示す刻印だ。
オイスタークラウンとは、1926年にロレックスが世界で初めて特許を取得した「ねじ込み式防水リューズ」の総称。リューズをケースにねじ込むことで内部を密閉するこの構造は、以来約100年にわたってロレックスの防水性能を支え続けている。
刻印が示す情報は大きく2つ。①ケース素材の識別と②防水密閉システム(ツインロック or トリプロック)のグレードだ。この2つの情報が組み合わさって、刻印のパターンが決まる。
現行モデルの刻印 全8種類
① 「-」(横棒)── ステンレス・ホワイトゴールドコンビ・金無垢のツインロック
ロレックスで最も多く見られる刻印。オイスタースチール(904Lステンレス)のほか、ホワイトゴールドコンビや金無垢モデルの一部にも採用されているツインロックの標準刻印だ。
| 素材 | ロック方式 | 代表モデル |
|---|---|---|
| オイスタースチール / WGコンビ / 金無垢(一部) | ツインロック | デイトジャスト(SS)、エクスプローラーI、エアキング、ミルガウス |
② 「・」(小ドット1つ)── プラチナのツインロック
950プラチナ素材のリューズに刻まれる、最も希少な刻印。ロレックスのプラチナモデルはデイデイトやパールマスターなど限られたラインにしか存在しないため、この刻印を持つ個体は稀だ。
| 素材 | ロック方式 | 代表モデル |
|---|---|---|
| 950プラチナ | ツインロック | デイデイト(プラチナ)、パールマスター |
③ 「・・」(小ドット2つ)── イエローゴールド・エルメティウムコンビ・金無垢のツインロック
イエローゴールドや、ロレックス独自の素材「エルメティウム(チタン×プラチナ合金)」コンビモデル、金無垢モデルの一部に見られる。素材がゴールド系に変わってもロック方式はツインロックのままで、防水性能も100m。
| 素材 | ロック方式 | 代表モデル |
|---|---|---|
| イエローゴールド / エルメティウムコンビ / 金無垢(一部) | ツインロック | デイトジャスト(YG)、デイデイト(YG) |
④ 「・・・」(小ドット3つ)── ステンレスのトリプロック
プロフェッショナルラインの標準刻印。ステンレス素材にトリプロックを組み合わせたモデルに刻まれる。サブマリーナやGMTマスターIIなど、ダイバーズ・プロフェッショナル系の主力モデルがこれにあたる。
| 素材 | ロック方式 | 代表モデル |
|---|---|---|
| オイスタースチール | トリプロック | サブマリーナ(SS)、GMTマスターII(SS)、エクスプローラーII |
⑤ 「・●・」(中央が大ドット)── 金無垢のトリプロック
3つのドットのうち中央だけが大きく刻まれているのが特徴。イエローゴールド・エバーローズゴールド・ホワイトゴールドなど金無垢素材にトリプロックを組み合わせたモデルに刻まれる。プロフェッショナルラインのゴールドモデルで確認できる。
| 素材 | ロック方式 | 代表モデル |
|---|---|---|
| 金無垢(YG / EWG / WG) | トリプロック | サブマリーナ(ゴールド)、GMTマスターII(ゴールド) |
⑥ 「●・●」(左右が大ドット)── プラチナ無垢のトリプロック
3つのドットのうち左右が大きく、中央が小さいという特殊な配置。プラチナ無垢にトリプロックを組み合わせた、現行ラインナップ中でも極めて希少な刻印。これを確認できるだけでも、かなりの知識レベルの証明になる。
| 素材 | ロック方式 | 代表モデル |
|---|---|---|
| 950プラチナ無垢 | トリプロック | デイデイト(プラチナ・プロフェッショナル仕様) |
⑦ 「・-・」(左右が小ドット・中央が横棒)── RLXチタンのトリプロック
SNSで話題になることも多い刻印がこれだ。一見「モールス信号のR(・-・)」に見えるこの記号は、ロレックス独自素材「RLXチタン(グレード5チタン合金)」を使用したトリプロッククラウンの刻印。軽量・高強度のチタン素材を採用するヨットマスターの一部モデルで確認できる。素材・ロック方式ともに特殊なため、8種類の中でも存在感が際立つ。
| 素材 | ロック方式 | 代表モデル |
|---|---|---|
| RLXチタン(グレード5チタン合金) | トリプロック | ヨットマスター(チタンモデル) |
⑧ 「●●●」(大ドット3つ)── シードゥエラーのステンレス専用
「・・・」と同じくトリプロック・ステンレスだが、ドットが3つすべて大きいのが特徴。シードゥエラー専用の刻印で、1,220m以上の超深度防水を誇るこのモデルの特別さをリューズにも刻んでいる。ディープシー(Ref.126660・3,900m防水)も同系統だ。
| 素材 | ロック方式 | 代表モデル |
|---|---|---|
| オイスタースチール | トリプロック(超高防水仕様) | シードゥエラー、ディープシー(Ref.126660) |
アンティーク・ヴィンテージの刻印
現行品の刻印体系が確立する以前、ヴィンテージロレックスには現代では見られない刻印が存在する。コレクターにとっては年代鑑定の手がかりにもなる。
| 刻印 | 意味・背景 | 年代目安 |
|---|---|---|
| ROLEX SUPER OYSTER | オイスタークラウンの初期バージョン。リューズ側面に文字列が刻まれていた時代の名残 | 1940〜50年代 |
| BREVET | フランス語で「特許」。オイスタークラウンの特許を示すために刻まれた | 1940〜50年代 |
| +(プラスマーク) | 初期オイスタークラウンの密閉機構を示す記号。現行刻印体系への移行前に使われた | 1950年代前後 |
| 無刻印 | 刻印システム確立前のごく初期モデル。または非純正リューズへの交換品 | 1940年代以前 |
ツインロックとトリプロックの構造的な違い
ツインロック(1953年導入)
1953年に導入されたロレックス初の二重密閉リューズ。リューズをケースのチューブにねじ込む際、2カ所にゴム製ガスケットが配置されており、これが内外を遮断する。構造がシンプルな分、操作性が高く、タウンユース・ドレス系モデルに十分な100m防水を実現する。
トリプロック(1960年代後半〜導入)
ツインロックを進化させた三重密閉システム。1960年代後半から段階的に導入され、現在はすべてのプロフェッショナルラインに標準装備されている。3段階の密閉構造が深海での水圧にも耐え、モデルによって300m〜最大3,900mの防水性能を実現する。
| ツインロック | トリプロック | |
|---|---|---|
| 密閉段階 | 2段階 | 3段階 |
| 防水性能 | 100m | 300m〜3,900m |
| 対応刻印 | – / ・ / ・・ | ・・・ / ・●・ / ●・● / ・-・ / ●●● |
| 主な採用ライン | クラシック・ドレス系 | プロフェッショナル系 |
| 導入年 | 1953年〜 | 1960年代後半〜 |
特殊仕様 ── GMTマスターII唯一の「左リューズ」
リューズの「刻印」とは別の話になるが、知っておきたい特殊仕様がひとつある。GMTマスターII Ref.126720VTNR(通称「スプライト」)は、現行ロレックスラインナップで唯一リューズが左側(9時位置)に配置されたモデルだ。
通常の右リューズは時計を装着したまま操作しにくいという声に応えた設計で、左利きユーザーや使用感を重視するコレクターから支持されている。刻印自体は同じトリプロック(・・・)だが、リューズ位置という観点でもロレックスの多様な設計思想が垣間見える。
刻印の実際の確認方法
リューズの刻印は非常に小さく、肉眼での判別は難しい。以下の方法が有効だ。
- ルーペ(10〜20倍)を使う── 時計コレクターが最もよく使う方法。リューズ側面を横から覗き込むようにすると見えやすい
- スマートフォンのマクロ撮影── 光を当てながら接写すると刻印が浮き出ることがある
- 横からの光源を使う── LED懐中電灯などで横方向から光を当てると、凹凸が影として浮き出やすい
- 専門店に持ち込む── 時計販売・修理の専門店では拡大鏡が常備されており、即座に判別してもらえる
ヴィンテージロレックスでは経年摩耗で刻印が薄れているケースも多い。その場合はリファレンス番号・シリアル番号とあわせて照合するのが確実だ。
刻印早見表 ── 全パターンまとめ
| 刻印 | 素材 | ロック方式 | 代表モデル |
|---|---|---|---|
| – | オイスタースチール・WGコンビ・金無垢(一部) | ツインロック | デイトジャスト(SS)、エクスプローラーI |
| ・ | 950プラチナ | ツインロック | デイデイト(Pt)、パールマスター |
| ・・ | YG・エルメティウムコンビ・金無垢(一部) | ツインロック | デイトジャスト(YG)、デイデイト(YG) |
| ・・・ | オイスタースチール | トリプロック | サブマリーナ(SS)、GMTマスターII(SS) |
| ・●・ | 金無垢(YG/EWG/WG) | トリプロック | サブマリーナ(Gold)、GMTマスターII(Gold) |
| ●・● | 950プラチナ無垢 | トリプロック | デイデイト(Pt・プロフェッショナル) |
| ・-・ | RLXチタン(グレード5) | トリプロック | ヨットマスター(チタン) |
| ●●● | オイスタースチール(超高防水仕様) | トリプロック | シードゥエラー、ディープシー |
| BREVET | ヴィンテージ | 初期オイスター | 1940〜50年代モデル |
| ROLEX SUPER OYSTER | ヴィンテージ | 初期オイスター | 1940〜50年代モデル |
| + | ヴィンテージ | 移行期 | 1950年代前後 |
よくある質問(FAQ)
この記事の監修
時計修理業界の取材・比較を専門とする編集部が作成。掲載情報は公式資料および専門メディアをもとに構成しています。モデル別スペックは製造年代・リファレンスにより異なる場合があります。詳細はロレックス公式サイトまたは正規販売店にてご確認ください。
最終更新: 2026年04月
